
【最新家電からキッチンを考える:第一回】
新しいアイデアの調理家電が続々現れている。料理の世界では、スロークッカー、自動調理、低温調理がキーワードとなりつつある。特に低温調理器などの出現は、家庭での調理に大きな変革をもたらす予感がする。エレクトロラックスが低温調理デバイスAnovaを高額で買収したことはそれをものがたっている。今まで低温調理の有効性はプロの間でいわれてきたが、実際に一定の温度を保つには相応の設備か調理者の労力が必要になり、一般家庭では現実的ではなかった。それが調理家電により容易になれば高級レストランの味が家庭でも気軽に楽しめるようになる。そうした動きをどうシステムキッチンに組み込んでいくかが今後の課題となる。
※Anova:食材をビニール袋に詰めて真空状態にしたものを95℃以下の低温で加熱調理する器具。素材を損なわず、肉はジューシーに、煮物はしっかりと味がしみ込み、一流レストランや料亭のように仕上げることができる。
図1 話題の低温調理器
1 キッチンのリフォームを思い立つ
私の住まいは自身の設計で建てたものだが、既に築20年以上が経過した。建築的には問題ないが、竣工時に比べ生活スタイルが大きく変化したこともあり、キッチンは、長年使ってきて問題点(収納が有効に使えないなど)が明らかになってきた。また家族構成の変化(子供の独立、親の老化)に伴い、今後の生活をもっとエンジョイしたいという気持ちが強くなってきた。そこで最新の調理家電を取り入れ思い切って改造してみようと考えるに至った。
図2 竣工時の我が家のキッチン(23年前)
2 システムキッチンの問題点
このところ妻と家電の量販店やキッチンのショールームめぐりをしている。最近のシステムキッチンの傾向は、キッチンが生活の中心に位置付けられるようになり、インテリアとして見られることを前提にデザインされていることだ。高級化しデザインも素晴らしく良くなってきている。
ところが実際に検討してみると、非常にパターン化し、ユーザーの細かいニーズに対して選択肢が限られている。特にキッチン家電に対してはあまり重きを置いておらず、積極的な利用は考えられていない。デザインのテイストが合わないからか、できるだけ隠す方向にあるようだ。調理器はすぐ使えることに意味がある。隠してしまってはその良さが発揮できない。そこで、我が家のキッチンの改造を頭に置きつつ、キッチン家電と融合した新しいキッチンを検討してみようと思う。
3 キッチンに対する我が家の考え方
・家事は合理的に短時間に済ませたい
・食にこだわるが、料理時間はできるだけ短縮したい
・きれい好きだが、キッチンをきれいに維持することに時間をかけたくない(時間がない)
・丈夫で長持ちする素材が良い
その結果、カウンタートップはステンレス、壁面の仕上げもタイルではなく、ステンレス張りとしている。
4 我が家のキッチンの歴史
- 1993年:竣工
ダイニングとのつながりを重視した2列型のセミオープンキッチンを作る。
図3 竣工時(23年前) ダイニングからキッチンを見る
- 2004年:ガスコンロをIHクッキングヒーターに交換
親が高齢になり、ガスを使うと危険だということで即決した。同時にビルトイン型のオーブンを検討した。型の古いものしか組み込めず、ビルトイン型のガスオーブンを諦め、上置のオーブンレンジを新規購入した。
【IHの特徴】
●フラットパネル
コンロを使わないとき、レベルがフラットなので調理台としても利用でき便利である。掃除が楽で、鍋が焦げないなど使いやすい。
●ラジエントヒーター
3つのうち一つがラジエントヒーターで、すぐガラス面が焦げる、熱が冷めるのに時間がかかるなど不便を感じあまり利用していない。
●3つ口 IH
使ってみると、サイズの関係で鍋3つは同時に並ばないことがわかった。
- 2010年:食洗機交換
竣工時に設置したビルトインのものの調子が悪くなる。
→環境に優しい重曹で洗える食洗機を選ぶ。
使ってみると汚れがあまり落ちないので、最近では家族が減ったこともあり、食器を重曹で手洗いし、食洗機をゆすぎ・乾燥のみに使っている。
- 2013年:オーブンレンジを電子レンジ+ノンフライヤーに買い換える
既存のオーブンレンジの性能が落ち、家族が少なくなり今まで続けてきたパン焼きをやめようと考える。ノンフライヤーの出現もあり、オーブンなしでも良いかと考え、シンプルな電子レンジに交換。ノンフライヤーを使ってみると、油を使わず健康的だが、後始末が大変、焦げ目がつかないので見た目がもの足りない。出来たては美味しいが、時間が経つと味が落ちるなど、まだ期待したほどの成果が出ていない。
現在は電子レンジをやめ、オーブンレンジの復活を検討している。
- 現在:IHコンロ3つ横並びが魅力的
三角配置の3つ口コンロは実際には3つ同時に鍋が並ばないので、横に3つ並んだタイプが魅力的だが、以下のような点で問題点があり検討中である。
・一般家庭では総電力量が制限されているので、3つのうち1つは火力が小さい
・国産メーカーを選んだ場合、ステンレスカウンターが使えない、シリーズが限定される、など他の部分に制約が多いので、海外メーカーのものと比較している
・コンロの幅が広がるので、レンジフードも交換するなど、大掛かりな工事が必要になる
図4_現状 奥からIHクッキングヒーター、重曹が使える食洗機
今回は、キッチン家電を自由に使えるキッチンのリフォームを計画するにあたって、その背景や前提条件を整理した。次回は実際に低温調理器を使った体験をリポートする。

著者:河村容治(かわむらようじ)
東京都市大学 都市生活学部元教授
博士(美術)、一級建築士、日本インテリア学会理事 CAD/CGによるインテリアデザイン教育に力を注ぐ。